大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和41年(家)4585号 審判 1966年12月13日

申立人 高山徳子(仮名)

相手方 高山公一郎(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担として、昭和四一年四月分より、別居して婚姻を継続する期間、一ヶ月金五万円を毎月末限り(既に期限を経過した分は本審判確定の日の翌日限り)申立人方に持参又は送金して支払うこと。

理由

一  調停の経緯

申立人は「相手方は申立人に対し、相当の婚姻費用の分担をする」旨の合意を求めるべく調停の申立をなしたので、数度調停期日を開き、相手方を呼出したが、正式呼出にも応じないばかりか、調査官の出頭勧告も無視し、正当な理由を示すことなく遂に一度も出頭しなかつたので、右調停は成立の見込みのないものとして終了し、審判手続に移行したものである。

二  本件調査の結果

(一)  申立人と相手方とが別居するに至つた事情

申立人と相手方は昭和一八年婚姻をなし、双方の間に長男智光(昭和一九年一一月一九日生)次女昭子(昭和二二年五月一三日生)三女てるみ(昭和二三年一〇月三一日生)が出生しており、当初は近隣でも評判にされる程円満な家庭であつた。相手方は、昭和三三年頃当時自己が取締役をしていた製薬会社の事務員であつた女性を囲つていたことを申立人に知られ、申立人より「その女性と別かれるように」懇願されたが、「家庭を破壊しないから」と誓約したまま、黙認の形となり、三日に一度位の割合で外泊している状態であつた。

その後、申立人は子宮癌のため昭和三八年夏頃から手術、入院を重ねて翌年二月頃退院したところ、相手方が今度は神山某女と妾関係を結んでいたことが判明した。その頃から相手方は次第に家庭に帰らぬ日が多くなり、昭和四〇年九月より完全に同女と他所で同棲生活に入り、申立人のもとを去つたまま今日に至つている。

(二)  申立人方の生活状況

申立人は相手方と共同生活中、前記三名の子女の養育と家事一切に専従し、相手方に協力していたところ、相手方が前述の如く、他の女性と同棲するに至り昭和四一年四月以降申立人及び子供達の生活費・教育費等の分担を為さない。長男智光が昭和四一年三月生活費・学費を貰いに相手方を訪れたところ「申立人が離婚に応じたらやるが、然らざれば金はやらない」旨申し渡されたが、申立人は、相手方が何れの日にか、きつと申立人と子供達のもとに復帰することを信じ、現在の屈辱に耐える意思が固いため、それ以後長男智光も相手方に生活費学費等を直接請求しに行き難い心境にあり、本審判の確定を待つている。

申立人及び長男智光、次女昭子、三女てるみの一ヶ月の生活費及び長男(医大二年生)三女(高校三年生)の学費(月平均)の合計は最も控え目に算出したところ次のとおりである。

主食費 六、四〇〇円

副食費 一二、〇〇〇円

調味料 一、〇〇〇円

光熱費(ガス・電気) 三、〇〇〇円

水道代 四〇〇円

新聞代(朝日) 五八〇円

被服費 二、〇〇〇円

医療費 一、〇〇〇円

交通費 四、五〇〇円(長男、三女の通学定期代を含む)

教育費 一七、〇〇〇円(長男、三女の授業料書籍代を含む)

雑費 五、〇〇〇円

合計 五二、八八〇円

尚、次女昭子は、三年程前右足に肉腫が出来、右太腿部切断をしたため、現在身体障害者として、歩行の訓練を要するが、その費用は上記金額に含まれていない。

(三)  相手方の生活状況

相手方は、申立人との婚姻生活中に得た貸工場及び、申立人らが現住している宅地及び家屋を担保として、相当の資金を得て、現在大阪市東淀川区○○○三丁目二六番地所在の○○○デパート(一階店舗、二階住居式、約三〇軒の店舗にて構成されている)の中、薬局「○○堂薬局」と、経営名義は不詳であるが、喫茶食堂「○○○」及び履物店の三店を経営し、前記神山と同所に同棲して、相当余裕のある生活をしている。

上記○○堂薬局の昭和四〇年度の営業純収入は、昭和四一年九月三日付堺税務署長発行の「昭和四〇年分所得税の異議申立決定書」及び昭和四一年六月一五日付の上記署長発行の「四一年分所得税の予定納税額の通知書」によれば、金七七万円を超えており、所得税、地方税その他強制保険料などを控除しても月収にして金五万円は下らないものと認めることができる。また前述のとおり経営名義及び営業収入は詳かになし得なかつたが、右記デパート内に事実上相手方が主となつて経営していると認められる喫茶店及び履物店があり、これらの収益の半分(神山某女の協力分を考慮し)をもつても相手方自身の生活を支えるに充分であると推認し得る。(相手方は何ら資料を提出することもなく、調査に協力しないので、遂に相手方の収入の一部については明確に為し得ない。)

三  判断

本件調査の結果、認定或は推認し得る上記事実に基いて相手方が申立人に対して負担すべき婚姻費用につき判断するに、申立人と相手方が別居に至つた責めは専ら相手方にあるというべく、又申立人は病弱であり、且つ、在学中或は身体障害のある子女の世話もしている以上、収入ある稼働をすることは期待できない。従つて相手方は申立人に対し相当の婚姻費用を負担すべきであるところ、長男智光は成人に達してはいるが、現在医科大学で勉学中であり、その進学については相手方の諒承を得ていることは勿論、相手方の資力に照らしてその就学は当然認め得べきもので、右記認定の生活費及び学費はすべて相当な婚姻費用であるというべきである。

一方相手方は、前記女性と同棲し、相当の生活を為しているものであり、申立人及び子供らに自己と同程度の生活を保持させる義務を有するものである以上、前記収入に照らして少くとも毎月金五万円を婚姻費用として申立人に支払うべきである。ところで主文記載の金額は相手方の収入の全額を明確になし得なかつた関係から、あくまでも申立人らの最低生活を支える額であつて、相手方は自ら進んで次女昭子の歩行訓練費その他不測の出費を負担するよう、また申立人或は長男智光は、機会を得て、内職、アルバイトその他積極的に収入の道を開き自己の生活の安定と向上をはかるよう望むものである。

本件は昭和四一年三月二七日申立てられたものであり、相手方は同年四月以降右記婚姻費用を負担していないことが認められるので、同月分より、申立人と相手方が別居して婚姻を継続する期間中、相手方は申立人に対して前記金額を支払うべく、主文のとおり審判する。

(なお、この審判は、その後当事者間に事情の変更があれば、当裁判所に変更の申立をなしうるものである。)

(家事審判官 矢部紀子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例